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バランスの良い左右対称の字に、精緻な彫刻技術と芸術的センスが光る。数種類の彫刻刀を使い分け、ミリ単位の線を一本一本、丁寧に彫っていく。
文字と絵柄を調和させ、均一な線や緻密さを追求する「密刻」も得意分野。「壺中天(別世界)」をテーマにクジャクが空を舞う様子を表現した作品は「1mmに5本の線を彫っている」。その作品は2016年、全国印章技術大競技会で最高位の厚生労働大臣賞を受賞した。「誰も文句が出せないくらい、とことん細かく彫ってみようと思ってね」
28歳の時に家業を継ぐため印判師の道へ。印章職人の学校「神奈川県印章高等職業訓練校」へ進んだ。卒業後は印章店に12年間勤め、05年からは同校の指導員となり、後進の育成にあたるほか、ものづくりマイスターとして市内の小中学校へ出向き指導するなど技能振興にも貢献している。「センスのある子もいる。スカウトしたくなっちゃいますね」とにっこり。「ハンコを作る苦労、押印の達成感を知ってもらって、簡単にハンコは不要なものと思わないでほしいな」と思いを込める。
道を歩み始め28年経った現在も、毎日彫りは欠かさない。「ハンコは昔から権利の象徴でその証となる。変なものは提供できない」と使命感をにじませる。「でも好みがあるので、未だに納品の時はドキドキしますね」。ハンコの魅力をたずねると「デザインだけでなく、朱肉の色や種類、押印の仕方も多様にある。その違いや変化を楽しんでもらい魅力が伝われば」と生き生きと話した。